2016年02月16日

重力波の観測(3)少し詳しい解説

 前2回で「宇宙の観測の歴史」などの時間稼ぎをしている間に,いろいろなことがわかってました.そこで,一般向けの解説記事などにあまり出ていないことを,少しまとめてみました.

1)日本のKAGRAの立場について:
 これは,日経新聞電子版,科学記者の目(2月14日付け)にたいへん適切な解説が出ています.(無料の会員登録で読むことができます.)
2)「太陽の重さの約30倍の2つのブラックホールの合体」は,なぜわかるのか:
 ブラックホール(以下,BHと略称)の合体は,「連星BH」(2つのBHが回転している)で起こります.このイメージは,どの解説文にもわかりやすい動画で示されています.この回転は「重力波」の放射によってエネルギーを失い,だんだん近づいて最後は合体することになります.そしてその間の重力波の放射の状況は,2つのBHのそれぞれの重さ,軌道の様子,などによって決まります.
 近年,この重力波放出の状況がほぼ完璧なまでにシミュレーション計算できるようになりました.次の図が,今回の報告論文に載っている図です:

GWObsCalc.png

(B. P. Abbott et al. Phys. Rev. Lett. 116, 061102 (2016).)
上の部分が2箇所のLIGOで観測された重力波の形,下が太陽質量の36倍と29倍のBHが合体するまでのシミュレーション計算の波形,です.両者の一致は見事なもので,質量の誤差はプラスマイナス太陽質量の4倍程度,です.
3)距離が約13億光年というのはどうしてわかるのか:
 発射される重力波の強度がシミュレーションで計算でき,それと実際の受信強度との比から距離がわかります.
4)方向はどうしてわかるのか:
 2箇所のLIGO観測所(一つはアメリカ西海岸のワシントン州,他はルイジアナ州)への,重力波の到達時間差,などからわかります.一般解説記事の図に出ているように,2箇所の観測だけでは大きな不確定性があります.日本のKAGRAなどを含めて世界で3箇所以上が同時に観測できれば,重力波で宇宙を観測する「重力波天文学」の完成になります.
5)太陽の30倍というBHは,あり得るのか:
 実はこれは大きな問題で,これまでの「星の形成の理論」からはなかなか考えにくいことでした.今回の観測の詳細を検討すると,その可能性は大いにある,ということです.むしろ今回の観測をきっかけにこのような観測をさらに推し進めれば,星やBHの形成の理論,ひいては現在の宇宙の姿の形成の理論に,大きな新展開がもたらされると期待されます.

(とりあえず)以上.

posted by 駿台天文中嶋 at 14:58| Comment(1) | 日記
この記事へのコメント
中嶋先生、

追加での解説ありがとうございました。シミュレーションとの比較で分かったというのはよく分かりました。

この分野はアメリカが技術的に先行していたのでしょうか。偶然か必然か、日本のニュートリノ研究や欧州のCERNなど、先進国間でも得意不得意があるのは、興味深いことだと感じることがあります。

最近は太陽系新惑星も大きく報道されていて、話題は尽きませんね。

また解説を楽しみにしています。
Posted by K.S. at 2016年02月18日 00:21
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